私は昭和14年、東京工業大学窯業学科へ入学した年、駒場の日本民藝館を訪れ、初めて柳宗悦の民芸論を知り、陳列されていた数々の美しい民芸品に接すると同時に、バーナード・リーチ、河井寛次郎、浜田庄司の作品群を見て心から感動した。それまで模索していた陶工としての自分の進むべき道がやっと見つかり、民芸陶器を志そうと決意した。その年、益子に故浜田庄司を訪ね、幸いにも卒業後の入門を許された。

第二次世界大戦中ビルマに出征、昭和21年、復員後一家をあげて益子に移住、門下生となった。八年目にやっと自分の窯を持ち独立することができた。
独立当初はなかなか師の作風の影響を脱することが出来ない。浜田庄司に傾倒して、その薫陶を受け、しかも同じ形式の登窯、同じ益子の原料しか使わぬから、どうしても同じ作風になってしまうのは当然である。先生は弟子達に対して個人作家としての自覚を持ち、浜田の模倣ではなく自分の個性を発揮した焼物を創造せよと言われ続けた。

先生のお宅のすぐ隣に築窯したので毎窯出しの度にお出でになり、窯から出た作品をご覧になって、ご機嫌が良くない顔で、「島岡さん、早く自分の焼物を作りなさい」と、おっしゃるのが常であった。

才能豊かな身ではない私は悩んだ。自分の性に合った新しい手法が何かないかと色々試みた。そんな時はたと、以前友人の古代土器複製の仕事を手伝った事を思い出し、縄文の手法を思いついた。それは縄文弥生時代の土器の複製を学校の教材として作る仕事であった。浜田先生に原型を作って頂き、それを石膏型に移して同じものを大量に作るのである。先生のお供をし、方々の大学や博物館へ見学勉強に出かけた。

縄文の文様の付け方は、東京大学理学部の山内清男講師から色々ご教示頂いたのだが、この事を思い出し、自分の焼物に試みると実に面白い効果が出た。また、幸い父が戦前組縄師であったことから多種多様な組紐を組んでくれたのも私には有り難いことであった。
「島岡君は縄文土器の手法から学んで独特の象嵌模様を愛用していますが、この主役をする各種の組紐は組紐師として名人だった日知上の遺品です。模様を紐に委せて自分の作風をたてている巧みさなどいかにも島岡君らしい心掛けといえましょう」。浜田先生が初めて私の推薦文を書いて下さった中の一節である。

このようにしてようやく自身の縄文象嵌の手法を身につけるに至ったが、唯一の手法であるにもかかわらず、非常に多くの変化があり、40年以上作り続けても全く飽きが来ない。素地の種類を益子から設楽、半磁器等に変えてみたり、象嵌用の粘土を白だけでなく、青、黒、赤等を用いてみる。釉薬も色々の種類を使用するし、焼成も釉焼、〆焼、塩釉等、窯も薪焼成の登窯やガス窯等々、何百という組み合わせの種類が可能である。ただ変化を追求する余り、つい技巧に走りがちであるが、本来の益子粘土に白象嵌を施し、地釉をかけ、登窯で焼いた事を決して忘れてはならない。それこそが私自身の焼物であり、原点であるのだから。